ひとりぼっちの言葉がない小説「羊と鋼の森」を巡る僕らの会話

第9回小説が好き!の会では、初の課題本となる小説「羊と鋼の森」を取り上げました。この静かで熱い小説は、きっと間口が広いので多くの方にとって読みやすい小説なのではないかと主催者である自分が勝手に思ったため、勝手に企画してみました。
結果、会の出席者の半分を越える10名のメンバーで語り合うことになり、私の進行の不手際もありましたが、自由に語って頂き、充実した時間となりました。
今回はその時に出た話や雰囲気を少しでもお届けできたらと思い、レポートにしたためます。
ネタバレを含むと思うので、お読みになる際はご注意ください。

ーまず、この小説の印象について。
静かで、体温が低い、波のない小説であると感じた人がいる一方で成長を描いた熱い小説だと感じる人もいました。
普通の小説にはないような、善人ばかりに囲まれた、恵まれた主人公を描いている。少し悪いことや絶望的なことが起きるのではないかと期待してしまうぐらい綺麗な小説。安心感がとてもある、優しい小説だったなどなど、読んだ人によって微妙に受け取ることに幅がありました。
ー調律師という職業を選んでいることについて。
読者との距離感が絶妙。普通だったらピアニストを主人公に吸えるところを、支える側に視点を置いているところに作者の優しさを感じた。
大舞台ではなく、一般家庭の調律師を描いているところも、作品の良さを引き出している。
お仕事小説として、仕事が連鎖していくことを感じさせてくれた。
またピアニストの前にある、調律師の戦いも描いている。昔「情熱大陸」で調律師を扱ったときのことを思い出した。
自分ひとりが100点の仕事をしても、それが100点のまま伝わるわけではない。調律師ってそういうことを表現するには適していると思った。
ーこの、小説の熱さについて
主人公の努力を努力と思わない姿勢が好き。努力に対しての熱い文章が多いのが印象的だった。
熱さを素直さに変えて書いてる感じがする。ひとりぼっちの言葉がない小説だなあと思った。会話が繋がっていて、独り言がない。夢を追いかける小説には、主人公が孤独を吐くシーンがあるけど、これにはない。誰かが答えてくれる。素直さを描き切っていて、この作者、すごいとおもった。
ただこの主人公、純粋培養過ぎて怖くなる。塩素さえも濾過してしまう主人公の今後が怖くもなる。挫折するときがくるのではないか。そういう意味ではいいところで終わっている小説だった。
ーこの小説から感じる作者、宮下奈都さんについて
外村の言葉で語られていて、彼はすべてが見えてるわけではないけど、作者はそこを意識してちゃんと書いてる。そこが良いなあと思った。
宮下さんは人生の苦味とかどうにもならないものがあることも知っていると思う。それでも、そういう大人に部分を描くのではなく、こういう作品を書いたということを考えると、きっと綺麗なものが大切だと考えているからだろうなあと思った。ある時期にしか抱けない真摯さとか、そういうのを大切にしたいと思っているんだと思う。
すごく丁寧で、わかりやすく書いてくれているので、作者の優しさが伝わってくる。最後のほうで、主人公外村が自分の仕事に満足していても、板鳥さんがさらにその上のことをさらっと提示してくるけど、それがピアノのことをわからなくてもわかるように書いてくれている。読者に対して本当丁寧で伝えようという意思を感じる。

ーその他の点について。
主人公と弟のシーンが短いけど、好き。主人公は天才型で自分を持っている人で、弟は持たざるもの。そういう暗い部分も現れていて、よかった。
この小説が調律に出会うところから始まっているのが好き。脈絡もなく人生で大切なものに出会う瞬間ってあると思う。そこから始まっていて、主人公の感情を第一にしている感じがする。


こんな感じでした!
あとは北海道の話なのに、雪に困らないから北海道感がないとか、
こういう話を読むと心が浄化されるとか、眩しくて「わあっ」って消えちゃいそうになるとか、
いろいろと話は散らかりつつ、だらだらと語りました。
ひとつの小説に対して、様々な捉え方が出るのが、やはり小説の良いところだと思います。視点がみんなそれぞれ微妙に違うところが面白い。
今回初の試みでしたが、また課題本に適してそうな小説を見つけたらやりたいと思います。
そのときには必ず今回の反省を活かして!!!
まとまらない文章でしたが、ご一読頂き、ありがとうございました!

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