第十三回レポート、小説好きのための読書会!

秋です。読書の秋です。みなさん小説を読みましょう! 

ってことでね、みんな大好きレポート係コウイチです。どうぞよろしく! 

秋になにする? って聞かれたら読書しかないですよねぇ。てか読書以外になにすんねん! って話でして、脳科学的にも秋に読書をすると他の季節よりも脳が活性化し、集中力を高める効果があるらしいですよ!(嘘) 

そんなこんなで、読書にもっとも最適な四季。秋を味方につけた僕は、積ん読本の消化にいそしむ日々を送っているのですが、今回の読書会で、アホみたいにまた積ん読本が増えました(笑) 

つーわけで、今月も元気にやりました~『第十三回、小説好きのための読書会!』ワーパチパチィ~。 

10月20日14時から、まいどお馴染みステキ空間、秋葉原『BOOKS』さんを利用させていただき、総勢26名の読書家の皆様にご参加いただけました。 

先月にみごと一周年を迎えた「小説が好き!の会」。二年目はもっといろんなことがしたい! と、今回は通常の読書会と、小説交換会の二部制にて実施。 

交換会じたいは過去に何度かしているのですが、どの会も10名前後の少人数で開催していました。
しかし今回の参加者26名! グループに分かれての交換ではなく、全体で一斉に交換するというなかなかパンチの効いた企画。 

会場の机と椅子を移動させて、全員で車座になって紹介しあう。そして欲しい小説を25冊のなかから一冊選ぶ! いや~選べないッスよね~、一つに絞れという方が酷ですよ……僕自身5冊ぐらいで最後までずっと悩んでました…… 

え、そんな大勢の前で紹介するの!?
そう思われた方いらっしゃいますか? まぁ僕も最初はそう思ったんですけど……
でも交換会は二部目、一部では通常の読書会(好きな小説を好きなだけ語ってもらう会)をしていたので、意外と緊張もほぐれていて、みなさんすんなり話せていたように思います。 

一部目で一緒のグループの方が語っていた小説がすごく読みたくなったり、でも交換会では別の小説を出されていて、それはそれで読みたくなったり…… 

けっきょく面白そうなものはみんな読みたくなっちゃう質なのです……だから家には積ん読本が山のごとし…… 

26人もいれば、おのずと読みたい小説が被ってしまうわけで、そうなればもうあとは己が力で勝ち取るしかないわけで、一冊の小説をかけた真剣勝負。にらみ合う両雄、一瞬の油断が敗北を意味する。手に汗を握るフェアな決闘……そう、じゃんけんです! 

さーいしょーはグー、じゃんけんぽんっ!  

勝者は栄冠(小説)を手にし、敗者は苦汁を啜る。比類なき至高の戦いです! 

これがもう楽しいですよねぇ、僕は最終的に二冊で悩んでいたんですが、競争率の高い方に飛び付きました! そして勝利! 敗者の悔しそうなうめき声が、僕を称える喝采のように聞こえました。めでたし、めでたし。 

⇧冗談ですよ? こんなに性格悪くないですからね、僕…… 

紹介された小説はジャンルや時代を越えて、様々なラインナップ。SF、ホラー、ファンタジー。純文学から海外小説。はたまたライトノベル(僕)まで! 

交換会に出された小説も、いま注目を集めるハードカバーの単行本や、3000円を越える海外小説など、太っ腹な方々がいて、「それを出してホントにいいの?」と、貰うほうが躊躇してしまうような小説も! 

あれを持って帰った人は、かなり恵まれてるなぁと思いました。ちなみに僕が頂いた一冊も単行本。文庫本の読み古された一冊を持っていってしまった僕としては、なんだか申し訳ない(笑) 

でもあれも面白いからね! 持ってった人はちゃんと感想聞かせてね! 

交換会は読んだあとに感想を言えたり、聞いたりできるからいいですよねぇ。僕もはやく読んで感想を伝えたいです! 

話は変わってしまうのですが、これまで読書会をやって来て、今回初めてのことが起こりました! 

まさかの小説が被る! 

いままで本当に不思議なことに、同じ日に、同じ小説が被ったことが一度もなかったんですよねぇ。もちろん別日や同じ作者が……ってことはあったんですが、まったく同じ小説が同じグループ内で被るなんて!? でも文庫本と単行本だったので、正確には被ってないってことで!笑 

三時間ある読書会も、終わってみればあっという間……。でも大丈夫! まだまだ喋り足りない人には二次会もあります! 

希望者を募っていく二次会。なぜかいつも「甘太郎」さんにお世話になっています。二次会では23名程が参加。参加率高くない? まだまだ足りないノベトーーク、ラウンド2です! 

二次会では前々からしてみたいといっていた、男女に分かれての飲み会に! つまるところ女子会と男子会ですね。女子会はまだしも、男子会という響きにはなにかしら異質なものを感じてなりません……そう思うのは僕だけでしょうか? 

分かれるといっても、場所は同じ「甘太郎」。すぐ隣でくんずほぐれつ繰り広げられる女子会に、どこか覗いてはいけない禁断の花園的な雰囲気(妄想)を感じながら、僕らは野郎ばかりでくんずほぐれつしてました! 

僕の高校は、ほとんど男子校みたいなものだったので、あの雰囲気はけっこう好きでしたけどね! 変な意味じゃなく! 

二次会も二時間ほどで終了。いや~楽しかった~(変な意味じゃなく!)と、そとへ出てみればまさかの雨!
え、傘持ってきてないよぉ~という方々がほとんどで、っんじゃあ雨上がるまでもう一軒いっとくぅ? みたいな流れで、三次会へと突入! 

「甘太郎」さんと同じビルにある「NIJYU-MARU」さんへと急行! 

三次会では男女分かれることもなく、もう運営側も責任放棄で気の向くままに無礼講! 

ひたすら続くノベトーーク、よくまあ話題が尽きないものだなぁとか思いつつ、土曜の夜は更けていくのであった…… 



 

~今後の告知、新企画始動!~ 


次回の読書会は11月10日に決定いたしました! 

時間は14時から、秋葉原での開催となります。

会場は「BOOKS」ではなく、別のレンタルスペースです。詳細はPeatixの「小説が好き!の会」にて! 

そしてこちらは新企画です。
いつもはレポート係に徹しているコウイチですが、なぜか主宰にまでしゃしゃりでることになりました。 

僕、コウイチ主宰の読書会、タイトルどーんっ! 


『エンタメ小説が好き!の会』ワーパチパチィ! 


新企画、ジャンル別読書会第一弾のジャンルは、エンタメ小説です! 

エンタメ好きはもちろん、面白いエンタメ小説を知りたい! という方はこぞってご参加ください! 

どこからがエンタメ? って質問はすでにたくさん頂いております。そのあたりの説明はPeatixにて詳細をご確認ください。 


 さらに! 


12月2日に、もうひとつ企画の準備が進行しています。 

はい、タイトルどーんっ! 


『「すべての見えない光」読書会 + 翻訳・海外小説が好き!の会』ドンドンパフパフッ! 


こちらはアメリカ人作家、アンソニー・ドーアさんの「すべての見えない光」を課題本にした読書会になっています。

主催者のダイチさんが、ここ数年で一番面白かったと豪語する一冊。
そんな素晴らしい小説について、みんなで語ろうじゃないか! という超個人的な会です。
また、読んでないっ! という方にはぜひオススメの一冊です。

またジャンル別読書会、第二弾「翻訳・海外小説が好き!の会」も兼ねているので、当日までに読めない、という方でも大丈夫! 海外小説好きには願ってもない読書会になります。

日程などの詳細はまた後日発表しますので、こちらも合わせてご期待ください! 



 ここからはレポート係コウイチによる小説パートになります。

読書会とは関係ないので、暇潰し程度にお付き合いください。 

最近長編用のプロットを書いたので、その冒頭を載せときます。荒削りすぎて読めたものではないですが……てか、読まないでぇ~。



      苔ティッシュ


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  もし、夢を売っていたら、あなたはどんな夢を買いますか?

 

        ──トーマス・ロベル・ベドス 


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  あついあついといっていた夏がいつのまにか過ぎ去ってしまった。ギャーギャー騒いでいたせみもいまは鳴いてない。夏のあいだはうるさいとしか感じなかったのに、聴こえなくなると僕をかくまってくれていた友達がどこかへ行ってしまったみたいだ。10月にもなれば景色はどこかものさびしい。ひとの来ないこの神社はとても静かで、僕一人だけのすすり泣く声が、遠くまで届いてしまいそう。誰かが聞きつけて僕をみつけやしないかと、頑張ってのどのおくで声を止めようとするんだけど、やっぱりもれちゃう声はどうしようもない。僕は賽銭箱まえの階段にひざを抱えて座っているけど、ずっと下を向いてうでに目を押し当てているから、街なかではみることのないような緑豊かな景色なんてどうでもよかった。

  僕の家から歩いて十五分。住宅街からちょっと離れた、丘のうえにある神社には、めったにひとが来ることはない。近所に住んでる篠原さんも、犬の散歩で近くまでは来るけど、てっぺんにある神社の境内まではあがって来ない。みんな、長い階段をわざわざ登ってまで、神社にお祈りにくるほど神さまなんて信じてないんだ。ここにひとがいるのなんて、お正月の初詣ぐらいでしかみたことがないもの。もちろん僕だって、神さまなんてものを信じてこんなところに来たんじゃない。ただ僕は、誰もいないところに行きたかっただけなんだ。

  どうして? って、そんなの決まってる。誰が好きこのんで敵ばかりいる場所にいようって思うんだ? 僕には味方なんて一人もいないんだよ。学校のクラスのやつらは、みんなして僕をからかってくる。僕はただ、普通にしてるだけなのに……。男子たちは急に髪の毛を引っぱったり、つき飛ばしたり、物を隠したりして、僕を指をさして笑ってくる。ほんとに幼稚なやつらさ。女子なんてもっとひどい。周りからみれば、普通に相手をしてくれてるみたいにみえるけど、僕から離れたあとはお互いにかげで笑いあってる。「……武宮」「……ぅ……っぷ、ちょっとやめてよ~」みたいな。僕の名前をだすだけで笑うなんて、どんなセンスしてんだよって強がってはみるけど、そんなひそひそ話を聞いてしまったら、面と向かっていわれたほうがマシだって思ってしまう。

  先生? あてにならないよ。先生なんて問題が起これば、そのときはちゃんと僕の味方をしてくれるけど、けっきょくはそれだけ。すべての解決にはならないんだ。学校で習っただろ? 太宰治の注文の多い料理店。あれの主人公たちとみんな一緒さ、喉元過ぎればってやつ。先生から怒られたときはおとなしくしてても、終わったらなんにも変わらない。また飽きもせずに僕を笑ってくる。

  お父さんなんか大嫌いいだ。一番の敵だといってもいい。「まっとうになれ」とか「世間さまに恥ずかしい」とか……。僕はじゅうぶん「まっとう」だし、「世間さまに恥ずかしい」なんて思わない。僕は僕なんだ、いままでが異常だったのさ。だいたい世間さまって、何さまだよ。神さまだとでもいうのか? 僕が僕として生きられないなら神さまのほうがくそ食らえだ!

  お母さんはまだ僕のことを理解しようと頑張ってくれてる。すくなくとも他の誰よりもお母さんが僕のことを想ってくれている。それは素直に嬉しいんだよ。でも味方というよりは僕に対してまだ戸惑っているんだ。お母さんのなかでも、まだ整理がつかないところがたくさんあるんだと思う。ちゃんと味方になってくれたとしても、お母さんだけじゃいまの僕を取り巻く環境はどうにもならないんだけどね。

  そうだよ。だから僕には味方がいないっていってるんだ。街を歩くひとみんな、僕を普通とは違う人間としてみてくる。となりに住んでる優しい吉野おばさんだって、僕をみる目は他のひとをみるそれとは違う。みんな僕を否定するんだ。言葉にださなくったって、心のなかでは否定してる。僕だってみんなと同じ人間なのに、みんなとすこし違うってだけで、まるで僕だけが間違っているみたいだ。間違っているのは僕じゃない。もし僕に間違いがあるとするならば、僕は産まれてくる世界を間違えたんだ。

  え、僕の名前? 武宮ひさぎだけど…… 

「──って、うわぁぁぁああ!?」

  僕はおどろいて階段から転げ落ちた。神社の屋根から垂れさがった長い紐に腕があたって、頭のうえでじゃらじゃらと小さく鈴がなる。僕はこの鈴のことを「神さまの呼び鈴」って呼んでるけど、これを鳴らして神さまがでて来たためしがないから、そろそろ新しい呼び名を考えようとしていたところ。え、ほんつぼすず? なにそれ? 

「って、なにこれ? なんなのこれ、どうなってんの?」

  さっきから頭のなかに誰かの声が聴こえてきて、でも耳では聞こえなくて、これが音楽だったらまだわかる。8ビートが自然と聴こえてくるってのはよくあることだ。でもちゃんと声が聴こえるんだ、ちゃんと僕に理解できる言葉として、これってどういうこと? ワケわかんないっ! あーそっか、って、なにが? 僕ずっと泣いてたけど、いまは別の意味で泣きそうだよ。顔をあげたらとなりに知らない女のひとがいて、すごく大人で背が高くて、高校生なのかな? どこかの学校の制服着てて、つやつやの長い髪の毛がすごい綺麗な歳上のお姉さんみたいな。 

「綺麗だなんて……ありがとうね、ひさぎくん」 

「き、綺麗とかいってな、ぅえっ!? な、なんで僕の名前……」 

「ひさぎくんが教えてくれたんでしょ?」

 「────っ!?」

  人差し指をほほにあてて、かわいく小首を捻りながら「ん?」とかいってる。お姉さんの困り顔、かわいい。じゃなくて! もちろんお姉さんと僕は初対面のはずだし、すくなくとも僕は知らない。知ってたとしたらこんなに綺麗なお姉さんを忘れっこないよ。なんか急にでてきて、ほんとにまったく意味がわかんないんだけど。なんかお姉さんモジモジしだして、指先でさらさらの毛先くるくるとかして、ほんのり顔赤くなってきてるし、伏し目がちで僕から逃げるようにすこし目線そらして、その仕草とかすごくかわいくて、大人で綺麗なお姉さんにもこんな一面あるんだって知れてちょっとドキドキする。

 「ちょ、ちょっとひさぎくん、誉めすぎだって。さすがに私も恥ずかしいから」 

「なっ、ほ、誉めてなんかっ」

  ──嘘つき、誉めてたでしょ? 頭のなかで声がした。いたずらが成功したみたいな含み笑いもする。 

「…………誉めてました……」

  ──これが僕とあかねさんとの出会い。秋の訪れとともにあらわれた、ふしぎな歳上のお姉さん。お姉さんは僕の考えてることが全部わかって、そして僕の頭に直接話しかけてくる。お姉さんは神さまの使いだったんだ── 

「──っじゃねーよ! なにを語りはじめてんだっ!

  あかねって誰? お姉さんの名前? あとなんなのこれ? 頭のなかで聴こえる声!

  あと、考えてることが全部、わかるってどういうこと? 

 自分のことふしぎな、とか、いわないほうがいいよ!」 

「ちょっと待って、待ってよ。いろいろといいすぎだよ! 

 こんな質問責めみたいなことお姉さん嫌いです。

  そしてなんでラップ調? いきなりのフリースタイル!?

  もしや喧嘩売ってる? って、最後のだけ助言だっ!?」 

「いや~だってそうじゃん! お姉さんのためじゃん。

  自分のことをふしぎ、とか、いうやついないって。

  それが己が証だって、最後まで言い張るなら、

  僕が折れてあげるよ、その気持ちわかるから」

 「まさかそっちをフューチャー? その話ふつう流さない!? 

 だってもっとあるでしょ? 私に聞きたいことがさぁ。

  いまのってテレパシー? とか、聞かなくていいの? 

 神さまの使い! とまで、正体明かしたんだよ?」 

「もちろんあるよたくさん! 聞きたいことが山ほど!

  でもさぁ仕方ないじゃんか、混乱中だよ頭が!

  いきなりのヒップホップだし、お姉さんめっちゃタイプだし、

  知らない世界だよテレパシー? 知りたいよあかねさんリテラシー!」

 「恥ずかしいこというよね、平気な顔で平然とさぁ。

  私のこと知りたいって本気で思ってるのかなキミは? 

 こんな誰もいないところで一人で泣いてるキミを、

  私は放っとけなくて思わず声かけたんだすぐに……」

  頭のなかでガンガンに流れてた8ビートのメロディーがプツリとぎれる。ッブハーって感じで、ひざに手をついて息を吐き出す。無意識に僕は握りこぶしをあかねとか名乗るお姉さんに向けて差し出していた。

 「ハァハァハァハァ……」

 「ハァハァハァハァ……」

  僕もお姉さんも息があがっていて、ひざに手をつかないといまにも倒れてしまいそうだ。だけどぜんぜん嫌じゃない。お姉さんもこぶしを作って、僕のこぶしにコツンとぶつける。言い争いはラップで、そんなの世界の常識だ。だけどこんな初対面の見知らぬお姉さんといきなりするとは思わなかった。体力をムダに使うラップなんて僕は嫌いだったけど、いまのはなんかすごく気持ちよかった。ほかに誰もいない神社の境内に、僕とお姉さん、二つの息が静かに響いた。僕の興奮した感情にお姉さんはアンサーをくれた。しかもあり得ないくらい自然に、いまだにどこからか8ビートのリズムが聴こえてる。たぶんこれは幻聴? とか、余韻みたいなものだと思うけど、でもあのときあの瞬間に流れていたメロディーを、僕とお姉さんはたしかに共有してたんだ。

  成長途中の体には負担の大きすぎるラップは、二十歳になるまでは4小節の3ターンまでって法律で決められてる。久しぶりにやったけどやっぱりキツい。法律で禁止されてるのもなっとくだ。僕はすこしずつ息が整ってきて、上体を反らして深呼吸した。お姉さんはまだ息切れしてるみたいで、両手をひざについて前屈みになってる。

 「もう大丈夫なの? すごいね」

  すこしだけ顔をあげて微笑みかけてくる。すると制服の襟の部分がふわりと開いて、ちょっとだけ胸がみえそうになる。僕はハッとして思わず顔をそむけた。

 「エッチ」

 「だから考えてることを読まないで!」

  お姉さんはふふふっと笑う。いまだにこのひとのこと、ぜんぜんわかってないけど、テレパシー? みたいな、考えてることが読めるとか、頭に直接語りかけるとか、そういうのは信じてもいいかなと思ってる。というか、実際に僕がそれを一番体験してるんだ、もう信じるしかないじゃないか。そうでしょ? 

「ひさぎくんは理解がはやくて助かるよ~」 

 ほらね。ため息。


 ────────────────────── 


「ダメだよ、10月に神社に来て泣いたりしても神様はいないんだから」

  なぜか二人して階段に並んで座った。うでとうでがふれ合いそうな距離で、僕はなんだか気まずくてすこし横にずれるんだけど、そのぶんお姉さんがずり寄ってくる。

 「神さまがいないことなんて知ってるよ。べつに神さまに聞いてほしくてここで泣いてたんじゃない。誰もいないところなら、どこでもよかったんだ。ここにいてもお姉さんにみつかっちゃったんだけどね」 

「違う違う、そうじゃ、そうじゃなぁい~」 

「……」 

 マニアックだな。 

 お姉さんは赤くなった顔を隠してしたを向いた。恥ずかしがるくらいならやらなければいいのに。 

 そういえばさっき、神さまの使いとかいってたっけ? たぶん大人になったときに消去したくなる黒い歴史の1ページになってしまうことは明らかだから、僕もできるだけはやく忘れてあげる努力をしないといけない。

 「だから違うってば。私が神様がいないっていったのは、いまが10月だから! 知らない? 10月は神無月っていうこと。聞いたことあるでしょ? 年に一度、全国の神様が島根県の出雲大社に集まって、その一年に起こったできごとなんかの会議をするんだよ。実際は会議という名分をもとに、大勢で集まって飲み会をしてるんだけど……」

  お姉さんは絵に描いたやれやれポーズをとって、ホントに「やれやれ」といって首を振った。

 「だいたい神様なんていないっていってるひとの方が私には不思議だよ。世界各地で神様にまつわる伝承は残ってるし、実際に神様を崇拝しているひとはたくさんいる。有名なのはキリスト様やブッタ様だよね。日本でもイザナギ様、イザナミ様は有名でしょ? とくに日本にはたくさんの神様が住んでいて、ここもそうだけど神様のぶんだけお社がたくさんある。神主さんとか、神様がに使えるための職業だってあるんだから」

  ふふんっと胸を張るお姉さん。これで信じるようになったでしょ? とでもいいたげな表情だ。

  たしかに伝承や言い伝えみたいなのはあるけど、それはあくまで想像であり、人間が造った架空の存在だ。たぶん大昔の科学が進んでいなかった時代に、自然現象や災害、厄災をおそれたひとたちが、神さまってものを造って、かってにお祈りとかして自分たちのなかにある恐怖をなぐさめたにすぎない。 

「なんでそこまで頑なに信じようとしないのかなぁ。逆にひさぎくんは神様がいないことを証明できるの? 科学的にでも論理的にでもなんでもいいから、私が納得できるような説明ができる?」 

「そんなの悪魔の証明だよ」 

「神様を悪魔で例えるなんて、なかなかのブラックジョークだね」

 「信じてるひとのなかには神さまはたしかにいるのかもしれない。だけどそれが神さまの証明にはならないよ」 

──じゃあ、私のこの能力は神様の証明になる?

  まただ、お姉さんの声が頭のなかで聞こえる。お姉さんはただ僕の方を向いて微笑んでるだけだし、腹話術とかでもない。音として聞こえてるんじゃなくて、僕の思考に彼女の声帯のデータだけが直接送り込まれているみたいだ。

 「なんなのこれ? 気持ち悪いよ」 

「いったでしょ? 私は神様の使いだって、正確には弟子? とか見習いみたいなものだけど、この能力は神様にとって必須の力なんだよ」
 お姉さんは立ち上がって、座ったままの僕の方を振り向いた。
「御告げって聞いたことあるでしょ? 神様の声を聞いたってひとは、歴史上何人もいる。文献として残ってないだけで、本当はもっとたくさんいるんだよ。御告げの正体がこれだよ」

 ──ひさぎくん。

 「やめてって、これ!」 

「ごめんごめん、でもこれですこしは信じてくれた?」

 「どうせお告げを聞くんならもっとマシな言葉を聞きたかったよ」

  それもそうかぁ、とか呟いてアハハと笑うお姉さん。でもこんなのを聞かされたら神様の存在ってのも本当かもしれないってすこし思っちゃう。 

「そうそう、もっと信じてよ。ラップをするときに頭のなかで、8ビートのメロディーが流れるのだって、DJ神様のおかげなんだから」

  DJ神様っていうネーミングセンスはどうかと思う。

  こんなことを考えてるとお姉さんはブーとほほを膨らまして怒る。

 「で、お姉さんが神さまの見習いだってのはどういうこと? 神主さんなの?」 

「ううん、そのままの意味だよ。私は将来神様になるためにいろいろと修行してるの。といっても生き神なんて最近じゃ流行らないから、私の場合は将来というより来世で神様になれるようにって意味だけどね」

 「……は?」 

 ダメだ。ついていけない。
 神さまになる? このお姉さんが? どこからどうみたって普通のお姉さんだ、とても神さまを目指してるひとのようにはみえない。まあ、神さまを目指してるひとをみたことがないのだから、これが神さまを目指してるひとです。といわれてしまえばそうなのかもしれないけど……。 

「えーっとね。ひとは死んでしまったら、輪廻転生してべつの人間として生まれ変わるでしょ? それがいわゆる来世ってやつなんだけど、私は人間じゃなくて、そのまま神様になりたいわけね。そのためには生きている間に、いろいろと勉強して神様になれる資格を得なきゃいけないの。そりゃそうだよね。神様は全知全能でないといけないから、ただ普通に人生を送ってるだけじゃ神様になんてなれるわけがない。だから私はここの神社の神様にお願いして、神様修行をおこなってるわけだよ。ほら、花嫁修業とかあるでしょ? そんな感じ。昔は聖徳太子様とか織田信長様みたいに生き神とか人神になるなんて方法もあったんだけど、天皇家も代々そうだったわけだし。でも昭和天皇が人間宣言をしてからは、そういうのは流行らなくなっちゃったんだよね。だから私も現世で神様になるんじゃなくて、来世での神様を目指してるってわけ。神様を目指すひとにとっては日本っていう国はかなり恵まれた環境なんだよ? たとえばキリスト教のキリスト様とかユダヤ教のヤハウェ様は、他に神様を造りたがらない方々だから、どんなに私が望んだって神様にはなれないの。だけど日本には八百万の神様がいて、本気でなりたいって思ってるひとには手を貸してくれるんだよ。もちろんかなりの努力は必要不可欠だし、才能とか素質も重要なんだけど、それでも神様になれる可能性が世界で一番高いのは日本なの。それなのに日本人の信仰率の低さっていったいなんなのかな? たぶんあまりに神様が多すぎて、誰を信仰していいのかわからないってのは確かにあるかもしれないけど、でも推し神を決めるってけっこう楽しいよ? まあ、神様たちも各分野に特化してる部分があるからその時々で推し神が変わるってのもわからなくはないけどね……って寝ないで!?」

  ちょっと肌寒くなってきた。夏ももう過ぎ去ったんだ、夕方になったら寒くなっちゃうよね。

  僕は立ち上がって家に帰ることにする。眠いし。 

「あれ、あれ~、私なんか変なこといった?」

  空をうかぶ雲があかね色に輝いてみえる。これから長い階段を降りてって、そのまま帰る。帰る? どこに? あ、僕の家か。お姉さんがいろいろ聞かせてくれたはずなのに、なんにも覚えてないのはなぜだろう? 

「え、待って、ホントになんで? 大丈夫?」

  あー、なんかもうなんにも考えられないや。ここはどこ? 私は誰?

 「大丈夫じゃない!? 一人称さえも変わってる!?」

  お姉さんがパチンッと僕の頬を叩いて挟む。 

「ごめんね、いろいろといいすぎた。いきなりこんなこといわれても困っちゃうよね」

  僕はまだぼーっとしてたけど、柔らかいものが僕の唇に当てられて我にかえる。

 「え? えっ!?」 

「大丈夫?」 

「え……う、うん」 

「よかった」

  なんかお姉さんは当たり前の顔してるけど、え、なに、いまの? もしかしてキス? 接吻? 急に、なんで? お姉さんが、僕に? 

「まだ混乱してるみたいだけど」そういってお姉さんは笑った。「神様うんぬんはもう忘れていいよ。でも、また泣きたくなったらここに来て、私はいつだってここにいるから」 

 僕のほほから手を放して、お姉さんはくるりと神社に向き直ってゆっくりと歩いていった。
「神様なんていない、そう思っちゃうかもしれない。けど、キミの悲しみや苦しみは、ぜんぶ私が聞いてあげる。だからね、ここに来て。私に話して」

  これが僕とあかねさんとの出会い。秋の訪れとともにあらわれた、ふしぎな歳上のお姉さん。なにを考えてるかなんてさっぱりわからない。でも僕の考えてることはぜんぶお見通し。そういうとこがちょっとズルいって思うけど、お姉さんとの出会いが、これからの僕のストーリーを大きく変えてくれる。そんな気がした。

  あ、これはちゃんと僕の語りですよ。  


                                つづく

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小説が好き!の会 【小説に限定した読書会】

小説について話したい、でも周りに小説について話せる人がいない。うまく話せる自信がない、それでも好きな小説について話したい。 そんな人たちのためのくつろぎの場所、それが「小説が好き!の会」です。 小説というのは音楽や映画と違って共有することが難しいかもしれません。だからこそゆっくりと時間をかけて、好きな小説を読んで感じた何かを、少しだけ誰かに話してみませんか? 誰かの感じた何かに触れてみませんか?