「すべての見えない光」
2018年12月2日、海外小説が好き!の会ではアンソニー・ドーア著「すべての見えない光」について語るグループを設けました。「小説が好き!の会」主催である私がここ何年かで読んだ小説のなかで、間違いなくベストだと思っている一冊です。
物語の主な舞台は1944年、フランスの海辺の街、サン・マロ。第二次世界大戦の最中、ドイツの少年ヴェルナーと盲目のフランスの少女マリー=ロールが出会います。520ページ近くあるこの長編小説のなかで彼らが出会うシーンが描かれているのはわずか10ページほど。
グループに参加したのは私含めて8名。企画した当初は誰か一人でも読んできてくれたらと思っていましたが、8名も集まるとは!本当に感謝です。
この企画がきっかけで手に取ってくれた人も多かったですが、読んでよかったという声を頂きました。自分の好きなものが受け入れてもらえる喜びを味わうことができました。
そのときに話されたことを雑多ですが、ここに記します。参加された方々がそれぞれに感じた「すべての見えない光」。より多くの人が読むきっかけになればと心から願います。
・戦争に絡んだサスペンスとして面白い。男の子と女の子、それぞれのパートで進んでいくのが面白い。歴史をWikipediaで調べたら、確かに戦争が激しく動いたときを描いていて、歴史的なものも描いている。フランスが窮地にあるときはヴェルナー側のドイツが盛り上がっていて、その対比も描かれていた。
・盲目のマリー・ロールの、感性の描き方がすごい。目が見える以上に見えているように感じた。マリーの父が模型を作って、目が見えなくても街を歩けるようにしているところで親子愛を感じた。
また最後のところ、マリーの視点で語られているところ、電波について言及しているところで、自然にもっと耳を傾けなくてはと感じた。最後の、そのあたりの文章はすごくよくて、タイトルの意味とも絡むが、うまいなあと感じた。
・ヴェルナーがマリーを最初に見るシーンが良い。マリーを美しく描写している。ただ見るだけなのに、ヴェルナーの気持ちがわかる。
・文体が特徴的。詩的だと感じた。正直、最初読みにくかった。詩的過ぎてリアリズムから外れたように感じた。
時間をかけて、休み休み読んだ。この長さなのでもっとドラマチックに描く方と思ったら淡々としていた。夢中になったのは、二人が会うところから。この作品はここに向けて描かれていて、ヴェルナーが輝いたのがこの瞬間だと思う。それがわかった。
他の登場人物も誰もが何かと戦っていて、それで一瞬輝くことを描いていると思った。
・読みにくいと感じて、ゆっくりと読んだ。誰にも感情移入せず、俯瞰した物語だと思いながら読んだ
フォルクハイマーがヴェルナーを思い出して「彼は小柄だった」と思い返すところにぐっときた。彼がヴェルナーをどう感じていたかわかるから。要所要所でぐっとくる言葉を挟んでくる。戦争のなかでみんな感情を押し殺していたのが、台詞でわかったりする。そういうものが伝わってくる文体でもあった。
・「シェルコレクター」「メモリーウォール」も読んでいて、アンソニー・ドーアはあざといと感じた。誉め言葉として。技量のある作家だから、あざとく感じても引き込まれたものがある。「よい小説だ」と感じさせてくれる。
「炎の海」という宝石の設定はいらなかったと思う。これがなくても物語は動いた。もし映画化されたら、すごい浮く気がする。
・感情移入はあまりしなかったけど、初めてヴェルナーがマリーを見るシーンは時間が止まったように感じて、すごいよかった。映画のように感じた。盲目のマリーが自力で家に帰れた時の、父の喜びが良かった。そういうポイントポイントが印象に残る小説だと思った。
ヴェルナーのマリーへの気持ちの描写がよい。彼女を知ったあとや出会ったあとのあたり。「きみを離したくない」という気持ちなど。淡々としたなかで描かれていて印象に残る。
一つ不満があるとすれば、なぜヴェルナーがここまでマリーを好きになったか、そのあたりの描写や構成が弱いと思った。
文章がすべて現在形なのが気になった。多分原文が現在形なのではないか。手紙の内容やフラッシュバックする台詞など、文体が多様に感じた。
・一ヶ月くらいかけてゆっくり読んだ。やはり淡々としているので、時間をかけて読むのが、よいのではないかと思った。海外文学を読むときは翻訳のリズムが結構重要で、これは本当翻訳がうまくて、読ませてくれた。
フレデリックが一番印象に残った。一番純粋な人が傷ついているように感じた。
・ヴェルナーの章で妹ユッタを描写がやたらエモーショナルに描かれていて、ぐっときてしまうときがあった。全体的に淡い光がかかっていて、時折、強い光がかかるように描かれているものがある。じわじわ泣けるタイプの小説だと思った。
・ヴェルナーに明確に感情移入したところがあって、ヴェルナーが初めて戦場に出て、磨いてきた能力が身を結んだところで、淡々と描いているけど、ここで彼は昂ぶりを感じているはずで、そしてその得意になった能力のせいで、そのあとの章で少女を殺してしまう。その一連の感情の流れを想像したら、自分はヴェルナーと同じ気持ちになってしまい、心が壊れると感じた。
――この会を本当にやってよかったと思っています。少しネタバレもしないように気を付けながら、大事なところに言及したことを外した意見だけ並べてみると伝わらないかもしれませんが、当日のみんなの語りには熱いものがありました。この小説を自分なりに受け止めて、参加してくれたのがわかりました。
またこのような会をやってみたいと思っています。自分が、心底惚れ込んだ小説を、誰かと共有することができるのは本当に貴重な経験だと感じました。
ご参加頂いた方、最後まで読んで頂いた方、本当にありがとうございました!!
小説が好き!の会 【小説に限定した読書会】
小説について話したい、でも周りに小説について話せる人がいない。うまく話せる自信がない、それでも好きな小説について話したい。 そんな人たちのためのくつろぎの場所、それが「小説が好き!の会」です。 小説というのは音楽や映画と違って共有することが難しいかもしれません。だからこそゆっくりと時間をかけて、好きな小説を読んで感じた何かを、少しだけ誰かに話してみませんか? 誰かの感じた何かに触れてみませんか?
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