第19回小説好きのための読書会、及び、第2回海外小説読書会レポート!

 

気付けばもう夏真っ盛り。長かった梅雨も明けて、なにもせずとも汗がにじむ暑い夏がやって来ました。暑さに負けて一度冷房を付けてしまうと、もう次の日からは冷房なしで寝るなんて考えられなくなってしまいました。文明の利器恐るべし。

 さてさて皆さま、この夏をいかがお過ごしでしょうか? 夏バテで食欲が無くなっていたりしませんか? 夏こそしっかり食べて元気にいきましょう! しかし一つだけ気をつけてください。夏バテしないようにと食べ過ぎて、わがままボディになってしまうと大変です。夏場に体重が増えてしまうと、なかなか減りにくい身体になってしまいます。トマトやオクラなど、ミネラル、ビタミン豊富な夏野菜を中心に、夏バテしにくい身体づくりをしていきましょう! きゅうりなんかは体温を下げる効果があるとされているので、暑い日にはぴったりの食材ですね。 

 ってな訳で、どうもお久しぶりです。レポート係コウイチです。6月も読書会はいつも通りに開催したのですが、レポート書くの忘れてました(笑) 

 ですので今回は、6月と7月の読書会をまとめて書きたいと思います。 

 まずは6月、まだ梅雨入りして間もない6月16日、奇跡的に晴れ間の見えたこの日に第19回、小説好きのための読書会が開催されました!

 場所は渋谷「みんなの会議室」さん。総勢32名の参加者の皆さまにお集まり頂きました。会の流れとしてはグループ分けをしたのち、自己紹介からのスタート。

 今回の自己紹介トークでは「仕事の前後や合間の楽しみ」というもの。現役バリバリの社会人の皆さま、平日は毎日のようにそれぞれの職場に赴くと思うのですが、そんななかにも小さな楽しみはきっとあるはず。ぼくなんかはちょっと早起きして職場の近くまで行き、近くのカフェでモーニングコーヒーを飲みながら読書をすることです。朝が弱いのでギリギリまで起きれないときも多々ありますが……。 

 そんなこんなで小説紹介へ。前半後半とグループ替えをして二週行うのですが、いつもながら幅広いラインナップが出揃いました。詳しくは第19回小説が好き!の会で紹介された小説たちをご覧ください。

 数ある小説のなかでも注目はリチャード・ブローティガンの「西瓜糖の日々」が被ったことでしょうか。毎回30人規模で読書会を開催してもなかなか被るなんてことはないのですが、珍しいこともあるものです。しかもブローティガン。流行ってるのかしら? 皆さまもぜひチェックしてみてください。

  喋りたいこと聞きたいことなどまだまだたくさんあったとおもいますが、大いに盛り上がった読書会はひとまず終了。二次会に移ります。毎回近くの居酒屋で二時間程度、小説の話を続けるのですが、これがまた止まりませんね。いったいどれだけ話せば尽きるのか、いやおそらく永遠に尽きることはないのでしょうね。小説があるかぎり。

  で、7月14日。こちらは海外小説限定、及び翻訳大賞候補作読書会でした。昨年12月に行われ大好評だった海外小説限定の読書会。


 約半年ぶりに第2回を開催いたしました。場所は渋谷「TIME SHARING」さん。6月の会場「みんなの会議室」さんと場所は近くなのですが、それゆえか迷われた方が数名いらっしゃいました。申し訳ないです。ぼくが目印としてもう少し目立っていれば……悔やまれます。

 でも海外小説限定というマニアックな内容にも関わらず、28名の参加者の皆さまにお集まり頂けたことには驚きました。なかには待ってました感が出ている人もいましたね。 

 前回はアンソニー・ドーア著「すべての見えない光」を課題本とし、その他様々な海外小説が紹介され、ぼくとしてもかなりインパクトのある回だったと記憶しています。

  そして今回、満を持して計画した読書会の内容は、翻訳大賞受賞作と最終候補に残った5作品を課題本として設定しました。課題本が複数あるということで、どうなってしまうのか当日までわからない状況だったのですが、課題本グループに参加した方のほとんどが大賞受賞作である「ガルヴェイアスの犬」を読んできたという結果になりました。でもでも、一応は5作品すべて揃ったのですよ。これは他の読書会ではなかなかお目にかかることはないと思うのですよ。大成功なのですよ。


 課題本以外にも様々な海外小説が紹介されました。詳しくは「第2回海外小説が好き!の会で紹介された小説たち」をご覧ください。

  二人の方が紹介されたサン=テグジュペリの「星の王子さま」はさすが名作ですね。海外小説限定といえどジャンルも年代もバラバラな多国籍な小説の数々。この光景は一言で事足りる、圧巻!
なかでも最も注目を集めた小説は劉慈欣(名前の漢字変換探すの疲れた)の「三体」ではないでしょうか。中国で2100万部を越えるメガヒット作が遂に日本上陸。この日はまだ発売されて一週間も経っていなかったというのに、もう読んで持ってきている猛者がいましたね。どうやらこの作品は三部作のようで、二部、三部と翻訳が進められているということなので今後に期待しましょう。主催であるダイチさんも数日後に読まれたらしく、三体読書会をやりたい!と騒いでおられました。ぼくも読みたいと思います。

  2ヶ月分を一気に書いてしまうと少し長くなってしまいますね。ではそろそろ終わりにしましょうか。次からはレポート、忘れないようにします(笑)
ではでは皆さま、また会う日まで。good-bye!
good-night!!




  ここからはレポート係コウイチによる小説パートです。暇な人は読んでみてもいいかと思います。でもこれを読むくらいなら普通の小説を読む方がいいとも思います。好きにしてください。なお今回は性描写が含まれます。過激なものはないと思いますが、苦手な方は普通の小説を読んでください。 



「コケティッシュ」


    どうしてここにいるのだろう。

  オーフィルまだ濡れている黒髪を後ろへと撫でつけるように掻き上げる。その手のひらは一般的な16歳の手と比べると、荒れていて固かった。室内は夜光灯しか点いておらず、慣れていない部屋を歩き回るには心もとない。豪奢なベッド、ガラス張りのローテーブルにちょうどいいソファー。床一面には厚みのある清潔な絨毯が敷き詰められている。彼にはその上を履物をはいて歩くという意味がわからない。背後から聞こえてくるシャワーの音に振り向いて、なおも自分がなぜこんなところにいるのかと自問した。

  バスローブの前襟を閉じて窓辺へといく。9階建てのマンションの上から2番目の高さからは、脇を流れるトルソリート川と対岸の幾つもの輝きを見下ろせた。こちらではさほど高級とはいえないマンションなのかもしれないが、一月の家賃だけでオーフィルの数ヶ月分の給料が消えてしまうだろう。彼が住んでいるのは川向こうの西の街。このマンションがある東の街に住む人々からは「スラム」と揶揄される貧民街だ。彼はいつも西の街から、東の煌めく夜景を眺めていた。それは彼らの街とは比べ物にならない発展した街に対しての嫉妬や羨望とは違い、ただ人間が産み出した光というものの美しさにみとれていただけだった。しかしいまは明確な怒りがこみ上げてくる。光の美しさは変わらないというのに。自分の主観がぼろぼろに崩れ去ってゆく音が聞こえた気がした。足元が波打ち、ひどい目眩に平衡感覚が失われたたらを踏んで後ずさる。暗いガラスに写った自分の表情が、彼をよりいっそう虚無へと誘う。 

「父さん、あなたはこの景色を一度でもみたことがあっただろうか。ぼくの生涯において、これほど屈辱的な光景はいまだかつてありませんでした。この国はやはり間違っている。頭ではわかっていたつもりでしたが、いま一度この国の腐敗した部分を垣間見た気がします」

  オーフィルは丹田に力をこめ、額をガラスに押しつけた。眉間に皺を寄せ、トルソリート川をまじまじと見詰めるように。それはこの現実に正面から向き合うためだったのか、己からの逃避だったのか、彼自身にも正確なところはわからなかった。わかることは、いまの彼にはなにもできないということだけだった。なんの権限も影響力も持たない年若きオーフィルは、水面に揺らめく星々のなかに、亡き父の姿を探した。あらゆる光を反射する気水域の液体は、塩分濃度によってわずかに光の屈折を変え、まったく別の街を写しているようだった。あの川底の街こそが本物の、自分たちが本来住むべき正しい街のように思う。どこかにあの川底の街に続く入り口があるのではないかと、オーフィルは目を凝らしてトルソリート川を観察し続けた。 

 まだ幼い彼の弟や妹たちは、薄汚れたブランケットにくるまり安らかな寝息をたてている。慕う兄の絶望も知らずに。 


 バスローブから覗く彼女の首筋は白く美しかった。細く長い指先で彼女はグラスを傾ける。ボルドーの葡萄酒は肉厚な唇の隙間にそそがれ、彼女の表情を蠱惑的にさせる。オーフィルは固唾を呑んでその場に立ち尽くすことしかできない。

 「フィル」

  伏し目がちな目を向けられ、彼は手汗を拭うようにしてバスローブの胸元を握り締めた。 

「そんなところに立ってないで、あなたもこっちに来てちょうだいよ。男女二人が同じ部屋にいて、女の私だけがベッドにいるなんておかしいと思わない? そうでしょう、フィル?」

  彼女はそういうと、深紅のネイルチップでぷっくりとした唇の稜線をなぞるように引っ掻いて笑う。彼は彼で乾燥していた唇を唾液で湿らせると、ぎこちない笑みを浮かべて見せた。

 「ぼくは西の人間だ。ここまで連れ込んでおいて知らなかったとはいわないよね、ミシャ。そもそもわからないんだ。キミのような表の人間が、わざわざスラムくんだりにまで出てきて、ぼくのみたいな奴を誘ってきたのかがね」

  酒場で急に話し掛けてきた彼女の姿を思い出していた。彼のミシャに対する第一印象は「綺麗な女」だった。瞳は大きく、鼻筋は通っている。なにより厚みのある唇が印象的だった。自分には不釣り合いだとは思いながらも、そんな女性を前にして前のめりになるなという方が、まだ若いオーフィルにとっては無理な話だ。ずっと歳上かと思っていたが、彼の一つ歳上なだけだと聞いて、ますますエンジンがかかってしまったことをいったい誰が責められるだろう。小綺麗な格好をしていたものの、まさか東の人間だとは思わなかったのだ。最初からわかっていたのなら、オーフィルは一緒になって呑んだりなどするはずがなかった。そもそも東の人間が西に足を運ぶことじたいが稀なのだ。

  たとえばこれが逆であれば、西の人間が東へと労働者としておもむくこともあるのだが、そんな時でさえ、東の人々が向ける視線は冷たいものである。東の人間からしてみれば、スラムなんぞに住んでいる連中は野良犬野良猫と大差ない。そんな連中と酒を飲み交わす、ましてや一夜を共にするなどまったくあり得ない話だった。 

 オーフィルの言葉をどう受け取ったのか、ミシャはくつくつと笑う。

 「なにか変なことでも勘ぐっているの、フィル? 私があなたをたぶらかして、危ない仕事をさせようとしているとでも?」 

「東の人間がわざわざ裏側まで足を運ぶなんて、表じゃ捌けない代物の売買ぐらいのものだからね」 

「東に住んでいるというだけの理由で、西の街でお酒を飲んではいけない、なんてルール、あったかしら。それに気に入った異性を自宅に招いてはいけない、なんてルールも無いでしょう? そんなふざけたルールがあったなら、人類はこんなにも増えすぎるわけがないもの」 

 あっけらかんと語るミシャ、東西の隔たりなんぞ下らないとでもいいたげに肩をすくめて首を振った。法律や規則なんて格式張った言葉を使わずに、簡単にルールという言葉を使うのはどこか彼女らしさを感じさせる。オーフィルは彼女に倣うようにして顔をしかめ返した。

 「ルールなんてない? 馬鹿をいっちゃいけない。ルールならキミたちが勝手に作ったんだろう。どこにも記載されていない、暗黙のやつを。それを自分から破るなんて真似はやめてくれないかな」 

「私たちが作った? 冗談。少なくとも私は作ってないわ。仮にそんなものが本当に存在したとしても、そもそもルールなんて脆いものなのよ。国が定めた法すらもどれほどの効力があるというの? あなたも私に聞いてきたじゃない、闇取引でもさせるのかって」 

「そんな取って付けたような建前をいっても仕方ないだろ」 

「あなたこそどうしたの、なにが気に食わないの、フィル? 私の容姿や性格に不満があった? お互いに気が合うと思ったから、私はあなたを誘ったんだけれど。ところであなたのその言葉こそ、取って付けたような建前なんじゃない?」

  ベッドから立ち上がり、ゆらゆらと近づいてくるミシャ。バスローブの腰ひもをほどき、前襟が徐々にはだけてゆく。固まったまま動けないでいるオーフィルに顔を寄せて、両の瞳を覗く。 

「ルールを勝手に作ってるのはあなたよ、フィル」 

「……そんなわけないだろう……」 

「あなただって本当はわかっているのでしょう? もっと自分に素直になってもいいのよ、フィル。ここには私とあなただけしかいないのだから。まさか、もうシャワーも浴びてしまった後で、尻込みされるとは思わなかったわ」 

 顔を火がついたようだった。困ったように微笑むミシャに、ずいぶんと子供扱いを受けているような気がしてならない。すぐ近くにいる彼女からは甘い香りがする。いつの間にかオーフィルのバスローブまでもがはだけていて、彼女の指先が、胸から下の方へと滑るように撫でられている。相手は東の人間、嫌悪する対象に違いない。理性ではわかっている。しかし感情よりも先に身体が反応してしまう。オーフィルの理性は、雄の本能に蹂躙されていく。 

 女の身体は薬物だ。それもとびっきり有害な部類の。眼窩から小型のハンドドレッサーを突っ込まれて、脳ミソをとろとろになるまでかき混ぜられる。こんな頭で正常な判断などできるはずもない。バスローブがいつの間にか剥がされていく。彼女の艶やかな肢体も露になり、たしかな膨らみと滑らかな曲線が強張ったオーフィルの身体を少しずつ溶かしてゆくようだった。 

 半ば引っ張られるようにしてベッドへと誘われる。彼女が仰向けに倒れこみ、オーフィルは彼女に覆い被さるようにして上位を取った。赤く膨らんだ唇に吸い込まれ、蓋をしたかと思うと互いに侵入を果たしねっとりと絡む。息継ぎの仕方も忘れ溺れそうになるほどに、知らなかった味を堪能し続ける。

  彼女は東の人間だ。しかしそれがどうしたというのだ。オーフィルは心の中で叫び声を上げる。彼女は天使や悪魔なんかじゃない、住んでいる世界はぼくと同じだ。同じ人間なのだ。ならば何が違う、ぼくと彼女で。産まれが違う。育ちが違う。それだけなのに。見えもしない壁は誰が作った? ぼくか、彼女か、あるいはこの国全体の陰謀か。しかしいま、ぼくと彼女の間に壁はない。なんて脆さだ。果たしてこれは現実か、いや、そんなことはどうでもいいのだ。これが夢ならば覚めなければいい。あのソルトリート川に写った、もう一つの街へと二人で行けばいい。求め過ぎたならばぼくは川底で溺れ死ぬのだろうか。それでも良いだろう。それが本当の世界なのだろうから。 

 オーフィルは浮上し息継ぎをする。次はもっと深くまで潜ってやろう、取り返しのつかなくなるほど。彼女は半身を起こしてサイドテーブルにあったグラス掴んだ。乱れた息のまま葡萄酒を傾ける。口の端からこぼれた赤い液体は、彼女の首筋を伝い身体を滑り落ちてゆく。

 「舐めて、フィル。舐めて」

  懇願するようにいい身体を反らす彼女に、オーフィルは半狂乱といえるほどの勢いで舌を這わせた。葡萄酒の通り道をなぞるようにして、首筋から始まり胸の谷間へ、腹の辺りで枝分かれした水路を一つも取りこぼさないように丁寧に浚う。臍の窪みに溜まった液体も最後まで吸い上げた。これがあるべき世界なのだ。オーフィルはまるで天啓を得たように、この世の理の一端に触れた気がしていた。すべてはここから始まったのだ。父も母も、すべての人類、すべての生き物も。彼女から舐めとる葡萄酒の味が、彼を肯定していた。彼は更なる肯定を求め、必死に彼女の身体に舌を這わせ続けた。深く潜る、どこまでも深く。彼はそこに本当の世界があることを信じた。 

「フィル」 

 身をよじる女の声が遠くから聞こえる。 

「ねえ、フィル」

  それはミシャの声だ。

 「もう、ないのよ。そこにはもう、なにもないのよ、フィル」 

 彼が動きを止めた時、オーフィルの世界はゆっくりと傾いてゆく。
 
 
  

                                          了

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